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藤沢周平

作  品  名 あらすじ(カバーより) 出版社
暗殺の年輪 藩の権力争いの蔭で苛酷な宿命に翻弄される下級武士・・・武家の非情な掟の世界を端正な文体と緻密な構成で描き、直木賞を受賞した表題作。晴澹たる人生を歩み続ける男たちの生きざまに深い共感をこめた「黒い縄」、北斎晩年の暗澹たる心象をえがく処女作「溟い海」、他に「ただ一撃」「囮」の五篇を収める。本格時代小説のみがもつ味わいと風格を感じさせる傑作集。 文春文庫
一茶 稀代の俳諧皆帥・一茶。親密さと平明。典雅の気取りとは無緑の独自の世界を示したその句。およそ俳聖という衣裳はふさわしくない。しかし全発句、生涯二万。尋常ならざる風狂の人か。さらに一茶は遺産横領人の汚名すら残し、俗事にたけた世間師の貌をも持つ。陰影にみちたこの俳人の生涯を描く渾身の力作長篇。 文春文庫
又蔵の火 表題作は、歴史の傍らに理れた小さな事件を素材に描く異色短篇小説。羽州荘内藩・土屋又蔵と丑蔵。叔父・甥としてつながる両人の、同族相討つ凄愴無残の果し合いの一部始終を、抑制された筆致で描きだし、異様な興奮と感動を呼んだ。ほかに「帰郷」「賽子無宿」「割れた月」「恐喝」など、この作家初期の秀作を収める。   文春文庫
闇の梯子 漆黒の闇に明滅するひそやかな人生絵図。藤沢作品初期の短篇を彩るその独自の色調は読者を魅了してやまない。酔いどれの叩き大工の哀歓をえがく「父と呼べ」、島送りの過去をもつだんまり老人と娘とのほのかな交流をえがく「入墨」、そして闇の世渡りに背を押されるように墜ちてゆく男たちの宿命をえがく表題作「闇の梯子」他、「相模守は無害」「紅の記憶」。 文春文庫
雲奔る
小説・雲井龍雄
米沢藩士・雲井龍雄。安井息軒の三計塾きっての俊才と謳わる。やがて幕末狂乱の嵐は奥羽列藩に及び、会津鎮撫の挙に出た薩摩に、龍雄は激しく憤り、「討薩ノ檄」を懐に奔走する。薩賊の兵、東下以来、侵掠せざる地なく、鶏牛をぬすみ、婦女に淫し・・・。討薩ひとすじに二十七歳の短く激しい生を生きた悲劇の志士を描く異色長篇!   文春文庫
冤罪 部屋住みの若侍堀源次郎には、ひそかに心を寄せる娘がいた。散歩のたびに心を寄せる娘がいた。散歩のたびに目顔で挨拶をかわす、坂下の家の娘である。ところがある日、お目当ての娘の姿が消え、彼女の父親相良彦兵衛が藩金横領の咎で詰め腹を切らされたことが判明した。不審に思った源次郎は疑惑追及に乗り出すが・・・。表題作他、「証拠人」「唆す」「潮田伝五郎置文」「密夫の顔」「夜の城」「臍曲がり新左」「一顆の瓜」「十四人目の男」 新潮文庫
暁のひかり 朝の清々しい光のなかを娘は竹竿に鑓って歩いてゆく。一心不乱、黒い眸を活きいき輝かせ歩く稽古をしているのだ。それは疲労しきった男の胸に沁みた。男の身体は賭場の匂いに濃くつつまれている。博徒の狐独な心象を鮮かにえがく表題秀作のほか、人足、荒くれなど、巷のはぐれ者たちの哀切な息づかいを端止に捉えた短篇名品集。表題作のほか「馬五郎焼身」「おふく」「穴熊」「しぶとい連中」「冬の潮」。 文春文庫
逆軍の旗 「時は今あめが下るし五月哉」明智光秀はその日の直前こう発句した。座して滅ぶかあるいは叛くか。天正十年六月一日、亀山城を出た光秀の軍列は本能寺へとむかう。戦国武将のなかでもひときわ異様な謎につつまれたこの人物を描き出す歴史小説。他に「上意改まる」「幻にあらず」「二人の失踪人」などを収める異色歴史小説集! 文春文庫
竹光始末 世の中変わっても、変わらないのは男の心―。一家の糊口を凌ぐために刀を売り、竹光を腰に仕官の条件である上意討へと向かう浪人の心意気「竹光始末」。口喧しい女房を尻目に、藩の危機を未然に防ぐ一刀流剣士の手柄「恐妻の剣」。他に「石を抱く」「冬の終わりに」「乱心」「遠方より来る」等、小説巧者藤沢周平が、世の片隅で生きる男たちの意地と度胸を、ユーモラスに、陰翳豊かに描く傑作時代小説全六編。 新潮文庫
時雨のあと 身体を悪くして以来、すさんだ日々を過ごす鳶の安蔵。妹みゆきは、兄の立ち直りを心の支えに、苦界に身を沈めた。客のあい間に小銭をつかみ兄に会うみゆき。ふたりの背に、冷たい時雨が降り注ぐ・・・。表題作他、「雪明かり」「闇の顔」「意気地なし」「秘密」「果し合い」「鱗雲」等、不遇な町人や下級武士を主人公に、江戸の市井に咲く小哀話を、繊麗に、人情味豊かに描く傑作短編全7話。 新潮文庫
闇の歯車 屈託ありげに黙々とのむ常連。浪人に遊び人、老隠居に商家の若旦那。そしてこの四人つきまとう謎の男。やがて男たちは夕闇に消えていった。誰が操るのか、皮肉なさだめに人を引きこむ闇の歯車が回る。―押し込み強盗をはかった男達と、それぞれに関わる女達の数奇な人生を描いたサスペンス時代長編。  講談社文庫
闇の穴 わたしを棄てた男が帰ってきた。大江戸の裏店でそっとともした灯を吹き消すような暗い顔。すさんだ瞳が、からんだ糸をひくように、わたしの心の闇の穴へとひきずりこむ―。ゆらめく女の心を円熟の筆に捉えた表題作。殺人現場を目撃したため、恐怖心から失語症にかかってしまった子供を抱えて働く寡婦の薄幸な生を描く「閉ざされた口」、他に「木綿触れ」「小川の辺」「狂気」「荒れ野」「夜が軋む」等、時代小説短編の絶品七編を収める。 新潮文庫
雪明かり
美しく心優しい女の哀れ。世の片隅で生きる博徒のせつなさ。武家支配の終熄を予感する武士の慨嘆──小さくも己れの世界を懸命に生きる武士や町人の内には、階級を超えた人間の血が流れる。人間の愛しさと哀しさを見つめる著者の優しい眼が全編を貫き、巧みな構成・鮮かな結末と相まって短編の粋を見せる。
講談社文庫
喜多川歌麿女絵草紙 寛政三年、蔦屋刊行の山東京伝の手になる酒落本が発禁処分を受けた。歌麿は、取締りの外に置かれた役者絵の注文を受けるべきか考えていた・・・。稀代の浮世絵師・喜多川歌麿、好色漢の代名詞とされるが、その実人生は意外に愛妻家の一面も持ち、まさに正体が知れない。この著者独自の手法と構成で描き出される人間・歌麿の貌!   文春文庫
長門守の陰謀 荘内藩十三万八千石、その藩主世継ぎをめぐる壮絶な暗闘、いわゆる「長門守事件」として史実に残る荘内藩空前の危機を描く表題歴史小説。時代小説のもっとも純一な世界を緻密かつ簡潔に描き上げた初期短篇「夢ぞ見し」「春の雪」など、藤沢作品の比類ない魅力と興奮を贈る一冊。他に「夕べの光」「遠い少女」 文春文庫
春秋山伏記 白装束に高下駄、髭面で好色そうな大男が、羽黒山からやって来た。はじめ彼は村人から危険視され、うさん臭く思われていたが、子供の命を救ったり、娘の病気を治したりするうち、次第に畏怖と尊敬の眼差を集めるようになった・・・。年若い里山伏と村人の織り成すユーモラスでエロティックな人間模様のうちに、著者の郷里山形県荘内地方に伝わる習俗を小説化した異色の時代長編。  新潮文庫
用心棒日月抄  家の事情にわが身の事情、用心棒の赴くところドラマがある。青江又八郎は二十六歳、故あって人を斬り脱藩、国許からの刺客に追われながらの用心棒家業。が、巷間を騒がす赤穂浪人の隠れた動きが活発になるにつれ、請負う仕事はなぜか、浅野・吉良両家の争いの周辺に・・・。江戸の庶民の哀歓を映しながら、同時代人から見た「忠臣蔵」の実相を鮮やかに捉えた、連作時代小説第一作。 新潮文庫
たそがれ清兵衛 下城の太鼓が鳴ると、いそいそと家路を急ぐ、人呼んで「たそがれ清兵衛」。領内を二分する抗争をよそに、病弱な妻とひっそり暮してはきたものの、お家の一大事とあっては、秘めた剣が黙っちゃいない。表題作のほか、「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「日和見与次郎」等、その風体性格ゆえに、ふだんは侮られがちな侍たちの意外な活躍を描く、痛快で情味あふれる異色連作。他に「うらなり与右衛門」「かが泣き半平」「祝い人助八」 新潮文庫
神隠し 伊沢屋の内儀お品が不意に姿を消した。三日後ひょっこり戻ってきたが、やつれながらも何故か凄艶さを漂わせている・・・。意表をつく仕掛けの表題作の他、家出した孫の帰りを待ちわびる老婆を襲う皮肉な運命「夜の雷雨」、記憶を失った娘が子供のない夫婦にもたらしたひと時の幸福「小鶴」など、市井に生きる人々の感情の機微を、余情溢れる筆致で織り上げた11編。他に「拐し」「昔の仲間」「疫病神」「告白」「三年目」「鬼」「桃の木の下で」「暗い渦」。 新潮文庫
消えた女
彫師伊之助捕物覚え
 版木彫り職人の伊之助は、元凄腕の岡っ引。逃げた女房が男と心中して以来、浮かない日を送っていたが、弥八親分から娘のおようが失踪したと告げられて、重い腰を上げた。おようの行方を追う先々で起こる怪事件。その裏に、材木商高麗屋と作事奉行の黒いつながりが浮かび上がってきた・・・。時代小説の名手が初めて挑んだ、新趣向の捕物帖―シリーズ第一作! 新潮文庫
回天の門 変節漢・山師・策士とひとは呼ぶ。清河八郎は今なお悪評と誤解のなかにある。八郎は仕官の途さえ望まぬ、一個の“草莽の士”であった。さらにその時代は、倒幕の機いまだ熱さず、彼は早すぎた志士として生きねばならなかった。郷里出奔から、麻布一ノ橋で凶刃に倒れるまで、この悲劇の孤士の生涯を余すところなく辿る力作一千枚。   文春文庫
驟り雨 激しい雨の中、一人の盗っ人が八幡さまの軒下に潜んで、通り向かいの問屋の様子を窺っていた。その眼の前へ、入れかわり立ちかわり雨宿りに来る人々。そして彼らが寸時、繰り広げる人間模様・・・。表題作「驟り雨」をはじめ、「贈り物」「うしろ姿」「ちきしょう!」「人殺し」「朝焼け」「遅いしあわせ」「運の尽き」「捨てた女」「泣かない女」等、全10編を収める。抗いきれない運命に翻弄されながらも江戸の町に懸命に生きる人々を、陰翳深く描く珠玉の作品集。 新潮文庫
橋ものがたり 幼馴染みのお蝶が、仕事場に幸助を訪ねてきた。奉公に出るからもう会えないと、別れを告げるために。“五年経ったら、二人でまた会おう”年季の明けた今、幸助は萬年橋の袂でお蝶を待つが・・・。(「約束」) 様々な人間が日毎行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描いて、絶賛を浴びた傑作時代小説。他に「小ぬか雨」「思い違い」「赤い夕日」「小さな橋で」「氷雨降る」「殺すな」「まぼろしの橋」「吹く風は秋」「川霧」 新潮文庫
霧の果て
神谷玄次郎捕物控
北の定町回り同心・神谷玄次郎。探索の手腕は卓抜、加えて冴えた剣技の持主なのだが、上ツ方の評判は芳しくない。このはぐれ同心は、馴染んだおかみの料理屋の二階に起臥する自堕落者なのである。・・・そんなある日、川に女が浮いた。死体の首には絞めた紐の跡と針で突いたような小さな傷。あいつが帰ってきた、玄次郎は呟いた。 文春文庫
春秋の檻 
獄医立花登手控え1
島送りになる若者の頼み事。無実を訴える男の正体。御家人毒殺未遂の真相。恋人を刺した女囚の愛憎。さまざまな暗い人間模様が江戸小伝馬町の牢屋に持ちこまれる。小さな罪の背後にうごめく大きな悪。心優しい青年獄医立花登が市井の人情も細やかに、柔術の妙技と推理の冴えを見せて事件を解く時代連作集。  講談社文庫
闇の傀儡師(上)
(やみのかいらいし)
筆耕稼業で気儘に暮らす御家人くずれの鶴見源次郎は、ひょんなことから深手を負った公儀穏密をたすけ、松平家へ宛てた密書を託される。紙片には「八は田に会す、ご用心」とある。田とは老中・田沼意次。そして八とは八獄党。それは幕府を怨み連綿と暗躍をつづける迷の徒党であった。伝奇小説風の色彩あざやかな本格時代小説。   文春文庫
闇の傀儡師(上) とおく慶安の昔から将軍職継承に絡み不穏な動きをつづける謎の集団・八獄党。右近将監とその闇の徒党との争いは日々職烈な展開をみせ、鶴見源次郎の身辺も次第に血の匂いにみちてくる。そしてついに、世子・大納言家基が奇怪な最期をとげる。毒殺説が流布され、激昂した将監は田沼を激しく追及するのだが・・・。 文春文庫
孤剣
用心棒日月抄
藩主毒殺の陰謀の証拠書類を持って姿を消した者がいる。藩取り潰しを目論み、公儀隠密も暗躍する。お家の危機を救うべく密命を帯び、青江又八郎は再度脱藩した。所は江戸、用心棒稼業で糊口を凌ぐ日々、目指す書類は何処に―。用心棒の行く先々で、次々に起こる怪事件を、江戸に生きる人々の人情に織りあわせて描く、シリーズ二作目。  新潮文庫
隠し剣孤影抄 剣客小説のジャンルに新たなかたちを示したシリーズとして好評の“隠し剣” 連作集七篇。凶々しいばかりに研ぎ澄まされた剣技を秘める主人公たち、またその技凄じきゆえ、その身に悲運を呼ぶ暗い因果。この作家ならではの色調と静かな語りで展げられる名品集である。「邪剣竜尾返し」「臆病剣松風」「暗殺剣虎ノ目」「必殺剣鳥刺し」「隠し剣鬼ノ爪」「女人剣さざ波」「悲運剣芦刈り」「宿命剣鬼走り」 文春文庫
隠し剣秋風抄 就寝前、一滴の読書。一作ずつ惜しみつつ頁を操る。気難しい読者をこれほど満たした時代小説は昨今稀である。好評“孤影抄”八篇につづく九篇の佳作。剣の遣い手は更に多彩。薄禄の呑んだくれ剣士のくぐもった悲哀を描く『酒乱剣石割り』、醜男にもそれなりの女難ありと語る『女難剣雷切り』など異色剣客小説集。他に「汚名剣双燕」「陽狂剣かげろう」「偏屈剣蟇ノ舌」「好色剣流水」「暗黒剣千鳥」「孤立剣残月」「盲目剣谺返し」 文春文庫
夜の橋 無頼の男民次の心の中にふと芽生えた一掬の情愛―雪散る江戸深川の夜の橋を舞台に、男女の心の葛藤を切々と描く表題作ほか、多彩な人間模様を哀感こめて刻む自選傑作時代小説八篇。 「鬼気」「夜の橋」「裏切り」「一夢の敗北」「冬の足音」「梅薫る」「孫十の逆襲」「泣くな、けい」「暗い鏡」 中公文庫
時雨みち にがい思い出だった。若かったとはいえ、よくあんな残酷な仕打ちが出来たものだ。出入りする機屋の婿養子に望まれて、新右衛門は一度断ったものの、身篭っていたおひさを捨てた。あれから二十余年、彼女はいま、苦界に身を沈めているという・・・。表題作「時雨みち」をはじめ、「帰還せず」「飛べ、左五郎」「山桜」「盗み喰い」「滴る汗」「幼い声」「夜の道」「おばさん」「亭主の仲間」「おさんが呼ぶ」等、人生のやるせなさ、男女の心の陰翳を、端正な文体で綴った時代小説集。 新潮文庫
風雪の檻 
獄医立花登手控え2
登と同じ鴨井道場の三羽烏のひとり新谷弥肋の身に、いったい何が起こったのか。道場に行くと言って家を出るが、実は深川の地回りの男たちと飲み回っているという。弥肋の行方を追う登の前に立ちはだかる悪。その背後に見えかくれする弥肋の影―。獄医立花登が人情味豊かに事件を解く好評シリーズ第二弾。  講談社文庫
霜の朝 その財力を賭けて粋を競った相手の紀ノ国屋文左衛門は、悪銭廃止令によって没落した。勝ち残った奈良屋茂左衛門の胸を一陣の風が吹き抜けていった。紀文と共に一つの時代が過ぎて行ったようだ・・・表題作「霜の朝」他に、若い武家夫婦の無念を晴らす下男の胸中「報復」や、意に染まぬ結婚をした女のあわれ「歳月」等、人の心に潜む愛と孤独。他に「泣く母」「嘘」「密告」「おとくの神」「虹の空」「禍福」「追われる男」「怠け者」を収録。 新潮文庫
漆黒の霧の中で
彫師伊之助捕物覚え
竪川に上った不審な水死人の素姓を洗って、聞きこみを続ける伊之助の前にくり広げられる江戸の町人たちの人生模様―。そして、闇に跳梁する謎の殺人鬼による、第2、第3の殺人―。伊之助の孤独な探索は、大店の主人や寺僧たちの悪と欲の世界を明るみに出すが…。元は凄腕の岡っ引、今は版木彫り職人の伊之助を主人公とする、絶妙の大江戸ハードボイルド。シリーズ第ニ弾!  新潮文庫
愛憎の檻
獄医立花登手控え3
御存じ小伝馬町の青年獄医寸花登シリーズ第三弾。娘の重病を治してもらったお礼にと、登に未解決の三年前の一家七人殺しの情報をもらした、入牢中の鋳かけ屋嘉吉が殺された。牢の中に兇悪な殺人者が・・・犯人を追って江戸の町を駆ける登(「奈落のおあき」)。起倒流の柔術の技と推理が冴える話題の連作集。  講談社文庫
密謀(上) 織田から豊臣へと急旋回し、やがて天下分け目の“関ヶ原”へと向かう戦国末期は、いたるところに策略と陥穽が口をあけて待ちかまえていた。謙信以来の精強を誇る東国の雄・上杉で主君景勝を支えるのは、二十代の若さだが、知謀の将として聞える直江兼続。本書は、兼続の慧眼と彼がする草(忍びの者)の暗躍を軸に、戦国の世の盛衰を活写した、興趣尽きない歴史・時代小説である。  新潮文庫
密謀(下) 秀吉の遺制を次々と破って我が物顔の家康に対抗するため、兼続は肝胆相照らす石田三成と、徳川方面を東西挟撃の罠に引きこむ密約をかわした。けれども、実際には三成が挙兵し、世をあげて関ヶ原決戦へと突入していく過程で上杉勢は遂に参戦しなかった。なぜなのか―。著者年来の歴史上の謎に解明を与えながら、綿密な構想と壮大なスケールで描く戦国ドラマ。 新潮文庫
よろずや平四郎活人剣(上) 神名平四郎。知行千石の旗本の子弟、しかし実質は、祝福されざる冷や飯食い、妾腹の子である。思い屈し、実家を出奔、裏店に棲みついたまではよいのだが、ただちに日々のたつきに窮してしまう。思案の揚句、やがて平四郎は奇妙な看板を揚げる。・・・喧嘩五十文、口論二十文、とりもどし物百文、よろずもめごと仲裁つかまつり候。   文春文庫
よろずや平四郎活人剣(下) 世にもめごとの種はつきぬとはいえ、依頼主のもち込む話は多彩をきわめる。中年夫婦の離縁話、勘当息子の連れもどし、駆け落ち娘の探索等々。武家とちがい、万事気儘な裏店にも、悲哀にみちた人生絵図がある。円熱期にあるこの作家の、代表的短篇連作シリーズ、愈々桂境。人の姿、世の姿の哀切な陰影を、端正に写し出す話題作。 文春文庫
人間の檻 
獄医立花登手控え4
病気の亭主に代って、店を取り仕切る女房おむらに挑みかかった槌屋彦三郎の頚をしめた手代新助は、情状を汲まれて八丈遠島と決まった。新助の身を案ずるおむら。一件落着と見えた事件の裏には、匂うような女の性が・・・(「女の部屋」)。颯爽、柔の冴えで悪に挑む好評シリーズ・獄医立花登手控え、ここに完結!  講談社文庫
刺客
用心棒日月抄
 お家乗っ取りを策謀する黒幕のもとから、五人の刺客が江戸に放たれた。家中屋敷の奥まで忍び込んで、藩士の非違をさぐる陰の集団「嗅足組」を抹殺するためにである。身を挺して危難を救ってくれた女頭領佐知の命が危ないと知った青江又八郎は三度び脱藩、用心棒稼業を続けながら、敵と対決するが・・・。好漢又八郎の凄絶な闘いと、佐知との交情を描く、第三作。 新潮文庫
龍を見た男 天に駆けのぼる龍の火柱のおかげで、見失った方角を知り、あやうく遭難を免れた漁師の因縁「龍を見た男」。駆落ちに失敗して苦界に沈んだ娘と、幼な馴染で彼女をしたう口がきけない男との心の交流「帰って来た女」。絶縁しながらも、相手が危難の際には味方となって筋を通す両剣士の意地「切腹」。その他、市井の人々の仕合せと喜怒哀楽を描いた「おつぎ」「逃走」「弾む声」「女下駄」「遠い別れ」「失踪」 新潮文庫
海鳴り(上) はじめて白髪をみつけたのは、いくつのときだったろう。骨身をけずり、果てにむかえた四十の坂。残された日々は、ただ老い朽ちてゆくばかりなのか。・・・家は闇のように冷えている。心通じぬ妻と、放蕩息子の跡取りと。紙商・小野屋新兵衛は、やがて、薄幸の人妻丸子屋のおかみおこうに、果せぬ想いをよせてゆく。世話物の名品。 文春文庫
海鳴り(下) このひとこそ・・・生涯に真の同伴者。男が女にえがく夢は、底知れぬ貪欲なのである。小野屋新兵衛は、人妻・おこうとの危険な逢瀬に、この世の仄かな光を見出した。しかし、闇はさらにひろくそして深いのだ。悪意にみち奸計をはりめぐらせて…。これこそ藤沢調として、他の追随をゆるさぬ人情物語の名品。  文春文庫
風の果て(上) 首席家老・桑山又左衛門の許に、ある日、果し状が届く。恥知る気あらば決闘に応じよ、と。相手は野瀬市之丞。かつては同じ部屋住み・軽輩の子、同門・片貝道場の友であるが、市之丞は今なお娶らず禄喰まぬ“厄介叔父”と呼ばれる五十男。・・・歳月とは何か、運とは非運とは? 運命の非情な饗宴を隈なく描く、武家小説の傑作!   文春文庫
風の果て(下) かつての軽輩の子は家老職を占めるに至る。栄耀きわめたとはいえ執政とは孤独な泥の道である。策謀と収賄。権力に近づいて腐り果てるのがおぬしののぞみか、市之丞は面罵する。又左衛門の心は溟い、執政などになるから友と斬り合わねばならぬのだ・・・。逼迫財政打開として荒地開墾の鍬はなお北へのびている。   文春文庫
決闘の辻
藤沢版新剣客伝
死を賭して得た剣名、生を捨てて得た剣技、何人にも渡すわけにはいかぬ―宮本武蔵が、神子上典膳が、柳生宗矩が、はたまた諸岡一羽斎とその弟子たちが、さらには愛洲移香斎が、生死の狭間で駆け抜けた、荒涼とした決闘の辻!迫真の対決描写を通して、剣客たちの生きざまに迫る藤沢版剣豪小説短編集。「二天の窟 宮本武蔵」「死闘 神子上典膳」「夜明けの月影 柳生但馬守宗矩」「師弟剣 諸岡一羽斎と弟子たち」「飛ぶ猿 愛洲移香斎」 講談社文庫
ささやく河
彫師伊之助捕物覚え
元は凄腕の岡っ引、今は版木彫り職人の伊之助。定町回り同心石塚宗平の口説きに負けて、何者かに刺殺された島帰りの男の過去を探るはめに。綿密に捜査を進め、25年前の3人組押し込み強盗事件に辿りついた時、彼の前に現れたあまりにも意外な犯人と哀切極まりないその動機―。江戸を流れる河に下町の人々の息づかいを鮮やかに映し出す長編時代ミステリー。シリーズ第三弾!  新潮文庫
白き瓶
小説 長塚節(たかし)
三十七年のみじかい生涯を、人間の世の中に清痩鶴のごとく住んだと悼まれ、妻も子ももたぬまま逝った長塚節。子規にもともその才を愛されたこの歌よみは、同時に名作「土」を生んだおおきな作家でもあった。旅と作歌にこわれやすい身体を捧げた稀有の人、その生のかがやきを清冽な文章で辿る会心の鎮魂賦。  文春文庫
花のあと 娘ざかりを剣の道に生きたある武家の娘。色白で細面、けして醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんな以登女にもほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手江口孫四朗である。老女の昔語りとして端正にえがかれる異色の表題武家物語のほか、「鬼ごっこ」「雪間草」「寒い灯」「疑惑」「旅の誘い」「冬の日」「悪癖」を収録。 文春文庫
小説の周辺 北斎晩年の遣り場のない鬱屈を鮮烈に描いた処女小説「溟い海」は、執筆当時の作者の自画像であったという。当代随一の時代小説の書き手であるこの作家はこれまで自身を語ること稀であった。郷里鶴岡と幼年時代、師や友、創作秘話、日常身辺などを簡潔に綴る、作品と併せ読むべき興味津々たる一冊、藤沢ファンには待望の名エッセイ。 文春文庫
本所しぐれ町物語 浮気に腹を立てて実家に帰ってしまった女房を連れ戻そうと思いながら、また別の女に走ってしまう小間物屋。大酒飲みの父親の借金を、身売りして返済しようとする10歳の娘。女房としっくりいかず、はかない望みを抱いて20年ぶりに元の恋人に会うが、幻滅だけを感じてしまう油屋。一見平穏に暮らす人々の心に、起こっては消える小さな波紋、微妙な気持ちの揺れをしみじみ描く連作長編。  新潮文庫
蝉しぐれ 朝、川のほとりで蛇にかまれた燐家の娘をすくう場面からはじまるこの物語、舞台は藤沢読者になじみ深い海坂藩である。清流と木立に囲まれた城下組屋敷。淡い恋、友情、そして悲運と忍苦。ひとりの少年藩士が成長してゆく姿をゆたかな光のなかで描いたこの作品は、名伏しがたい哀惜をさそわずにおかない。  文春文庫
麦屋町昼下がり 不伝流の俊才剣士・片桐敬助は、藩中随一とうたわれる剣の遣い手号削新次郎と、奇しき宿命の糸にむすばれ対峙する。男の闘いの一部始終を緊密な構成、乾いた抒情で鮮烈に描き出す表題秀作の他、円熟期をむかえたこの作家の名品を三篇。時代小説の芳醇・多彩な味わいはこれに尽きる、と評された話題の本!「麦屋町昼下がり」「三の丸広場下城どき」「山姥橋夜五ツ」「榎屋敷宵の春月」 文藝春秋
市塵 生類憐れみの令の廃止、朝鮮使節の待遇変更、通貨の改革、外国貿易の改善など、幕政改革に挺身した新井白石。清貧の生活に甘んじ、子女10人のうち6人もが早逝、自らも病身に鞭打ちながら職責を全うした新井白石。その不屈の生涯を描く長篇歴史小説。
講談社
三屋清左衛門残日録 日残りて昏るるに未だ遠し―家督をゆずり、離れに起臥する隠居の身となった三屋清左衛門は、日録を記すことを自らに課した。世間から隔てられた寂寥感、老いた身を襲う悔恨。しかし、藩の執政府は紛糾の渦中にあったのである。老いゆく日々の命のかがやきを、いぶし銀にも似た見事な筆で描く傑作長編小説。   文藝春秋
玄鳥 無外流の剣士として高名だった亡父から秘伝を受けついだ路は、上意討ちに失敗して周囲から「役立たず」と嘲笑され、左遷された曾根兵六にその秘伝を教えようとする。武家の娘の淡い恋心を、帰らぬ燕に託してえがく表題作「玄鳥」、身の不運をかこつ下級武士の心を見事にとらえた「浦島」、の他に「三月の鮠」「闇討ち」「鶺鴒」 文藝春秋
凶刃
用心棒日月抄
好漢青江又八郎も今は四十代半ば、若かりし用心棒稼業の日々は遠い…。国元での平穏な日常を破ったのは、藩の陰の組織「嗅足組」解散を伝える密命を帯びての江戸出府だった。なつかしい女嗅足・佐知との十六年ぶりの再会も束の間、藩の秘密をめぐる暗闘に巻きこまれる。幕府隠密、藩内の黒幕、嗅足組―三つ巴の死闘の背後にある、藩存亡にかわる秘密とは。シリーズ第四作。  新潮社
天保悪党伝

河内山宗俊。片岡直次郎。金子市之丞。森田屋清蔵。くらやみの丑松。三千歳。江戸天保年間、天保六花撰と謳われ、闇に生き、悪に駆る六人の男たちがいた。時代を痛快に生きた男たちの連作長編時代小説。 

角川書店
ふるさとへ廻る六部は 「ふるさとへ廻る六部(巡礼)は気の弱り」これは、山形出身の著者が初めて青森、秋田、岩手へ旅したときの気持を、やや自嘲的に表現した古川柳。だが言葉とはうらはらに、この旅は東北人である自分の根を再確認する旅だった。―庄内地方への郷愁、変貌する故郷への喪失感、時代小説へのこだわりと自負、創作の秘密、そして身辺・自伝随想等を収めた文庫オリジナル・エッセイ集。 新潮文庫
秘太刀馬の骨 北国の藩、筆頭家老暗殺につかわれた幻の剣「馬の骨」。下手人不明のまま六年、闇にうもれた秘太刀探索を下命された半十郎と銀次郎は、藩内の剣客ひとりひとりと立合うことになる。やがて秘剣の裏に熾烈な執政をめぐる暗闘がみえてくる 文藝春秋
夜消える 酒びたりの父親が嫁入りの邪魔になると娘に泣きつかれた母親、岡場所に身を沈めた幼馴染と再会した商家の主人、五年ぶりにめぐりあった別れた夫婦、夜逃げした家族に置き去りにされた寝たきりの老婆・・・市井に生きる男女の哀歓と人情の機微を綴った短編集。「夜消える」「にがい再会」「永代橋」「踊る手」「消息」「初つばめ」「遠ざかる声」 文春文庫
日暮れ竹河岸 江戸の十二カ月を鮮やかに切りとった十二の掌篇と広重の「名所江戸百景」を舞台とした七つの短篇。それぞれに作者秘愛の浮世絵から発想を得て、つむぎだされた短篇名品集である。市井のひとびとの、陰翳ゆたかな人生絵図を掌の小品に仕上げた極上品、全十九篇を収録。これが作者生前最後の作品集となった。『江戸おんな絵姿十二景』『広重「名所江戸百景」より』 文藝春秋
漆の実のみのる国(上) 貧窮のどん底にあえぐ米沢藩。一汁一菜をもちい、木綿を着て、藩政たてなおしに心血をそそいだ上杉鷹山と執政たち。政治とは、民を富まし、しあわせな日々の暮しをあたえることにほかならない。藤沢さんが読者にのこした遺書とでもいうべきこの長篇小説は、無私に殉じたひとびとの、類いなくうつくしい物語である。  文藝春秋
漆の実のみのる国(下) 天よ、いつまでわれらをくるしめるつもりですか。改革はままならない。鷹山の孤独と哀しみを明澄な筆でえがきだす下巻。けれど漆は生長し熟しはじめていた。その実は触れあって枝先でからからと音をたてるだろう。秋の野はその音でみたされるだろう―。物語は、いよいよふかく静かな響きをたたえはじめる。 文藝春秋
半生の記 自身を語ることが稀だったこの作家が初めて明かす半生記。郷里山形、生家と家族、戦中戦後、そして闘病。エピソードを交えて自分の歩いてきた道を静かに淡々と語る。藤沢文学の源泉をあかす自叙伝。 文藝春秋



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